風邪のひきかた
辻征夫の詩集に『かぜのひきかた』がある。わたしが人生で初めて買った詩集だ。
この本を読んで初めて詩が身体に入ってきたと感じた。それまでラブクラフトやら寺山修司やら詩ではないものの、詩の形が強く活かされている本を読んできたにも関わらず、詩がよくわからなかった。いま思えば、それは詩が持つイメージを共有できていなかったのだ。
言葉には定義があり、詩のように短い文章では言葉ひとつひとつの定義がより濃く著されるし、歴史的な背景も含めて託された意味をすべて読み取らなければならない。それまで宮沢賢治やランボーをかっこつけて読もうとしたもののすべて討ち死にしていたのは、当時のわたしの語彙では言葉が持つ定義をすくい取ることができなかったせいなのかも、と思う。すごくせっかちで、次から次へと本を読みあさっていたけれども、読み取るだけの能力を身につけるのはもうちょっと後だった。
風邪をひくたびにいつもこの詩集を思い出すけれども、でも、開かない。風邪のひきかたはもう知っているから。
苔を見だしてから買ったもの
苔がきれいなことを知ったのは去年のこと。都会の道ばたに生えているギンゴケやハマキゴケは雨の後に水分を吸って輝く。もっとちゃんと見ようと思ってルーペを買った。
めがねをかけているとどうしてもルーペの金属部とめがねのレンズが接触するのが気になる。傷つきそう。なので、ルーペの代わりになるものはないかと探していて出会ったのがオリンパスのTG-3。
OLYMPUS デジタルカメラ STYLUS TG-4 Tough ブラック 1600万画素CMOS F2.0 15m 防水 100kgf耐荷重 GPS+電子コンパス&内蔵Wi-Fi TG-4 BLK
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フラッシュのはたらきをするLG-1と組み合わせると0.1mmの距離さえ写せる。そうすると大方の苔を見て写すことができるのがおもしろくなる。コンデジでこれだけ写るなら、一眼レフのマクロレンズというのはどれだけ写るのだ、という好奇心で手を出した。
OLYMPUS ミラーレス一眼 OM-D E-M5 MarkII ボディー ブラック E-M5 MarkIIBody BLK
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きれいに撮れるときはシャッターを押した回数の1/10くらい。たいていピントが甘かったりISOの設定を外してぶれている。つまり、全然使いこなせていない。
苔を撮ることがいつの間にか目的に変わってしまったけど、それにはまず良い買い物をしなければならない。カメラの腕は上がらないままに。
次はこのレンズを買います、広角! 広角がなければ死ぬ!
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なんか今いる会社おかしいと思ったらやるべきこと
あまりニュースについてどうこう言うつもりはないんだけど、立て続けにブラック企業関連の話題が目についたので、わたしの経験を記しておこうと思う。
直前にいた会社はタイムカードという概念がなくて、書類上は全員が定時で帰宅していることになっていた。にもかかわらず、わたしなどは早く帰れた方で月の残業時間が60時間を越えることはなかったけど、中には徹夜している人もちらほら。今時徹夜って。
その前にいた会社では労働と関係のないセミナーに行かされそうになった。インターネットに書くとすぐさま擁護者がやってくる、知る人ぞ知るあれだ。接客業でもないし、担当業務で問題を起こしたこともないのにそんな不毛な「勉強」をする意味がわからないし、第一家庭の事情もある。断り続けたら社長や会社内部外部のえらい人から呼び出しを食らって、一時期は精神的に不調になって難聴になりかけた。
さて、本題。会社がおかしいと思ったらやるべきこと、というか、おかしくなくてもやっておくべきこと。セミナーに行かせようとした会社も入ったばかりはほとんどそんなそぶりは見せなくて、えらい人たちがえらい人用のセミナーに行ってたくさんお金を払うようになってから、社員にも行かせようとしたので、どんな会社も疑ってかかる必要がある。
Googleカレンダーにやった作業をすべて入力
出退勤をとらない会社に対する証明としてよく言われるのが出勤時刻と退勤時刻をメールしておくというもの。でもこの手法はなんとなく不自然だし、業務の必要性が個人的にはあまり感じられない。なので、Googleカレンダーに作業内容を30分単位で全部入力しておく方がいい。この前、労働基準監督署でも一応受け取ってくれたから、それなりの証明にはなりそう。使っていない人は解説書からどうぞ。
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えらい人との会話は録音
めんどくさいことに巻き込まれそうになったら必ずスマートフォンで録音しておく。面接室に入る前にスイッチを入れて、終わって部屋を出てからオフにする。えらい人から「クビ」とか「やめろ」という言質を取ればこっちのもの。そのデータをもって「弁護士を立てます」と言えばふつうの中小企業なら強く出てこられなくなります。一方的な解雇は日本の法律で認められていないので。もちろん、専門のレコーダーを使ったっていい。
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給与明細、就業規則、賃金規定、契約内容は必ず自宅に保管
よく社外持ち出し禁止と言われる就業規則ですが、それがないと仮に裁判になった時、相手の都合よく書き換えられてしまうおそれがあるので、なんとかして就業規則と賃金規定は自宅にコピーをとっておいた方がいい。たいていは人がいない時にコピーして持ち出せばいいし、最悪スキャンしたデータをGoogle Driveにアップすればいい。
プライベートのデータは一切残さない
ログイン情報などが残っているとどこから利用されるかわからないので、できればChromeはシークレットモードなどで使用する。Evernoteなども極力使わない方がいいけど、いざというときは毎日パスワードを変えるくらいの心意気なら使ってもいいかも。まあ、ふつうはWindowsのログインパスワードで誰も入れないようにしておくのが一番ですけど。そうそう、ログを消すのもお忘れなく。
法律を学ぶ
自分がまちがっているかどうかは会社にいると分からないことが多い。大多数の意見が正しいように感じてしまうのは自分が弱いからではなく、日本で暮らす以上当然のこと。なので、客観的な視点を得るために法律を勉強した方がいい。労働法の基礎はもちろんだけど、時間があったり若いうちなら行政書士を目指すといいかも。憲法や民法は一通り習うし、範囲ではないけど労働法なんかにも目を通す機会が出てくる。何より行政書士になれたら会社の下で働く必要がなくなりますね。伊藤先生のテキストは理屈が分かりやすいのでおすすめです。
危険を感じたら会社をやめてしまう
「逃げ」とか主観的なことを言うのはいつだって部外者。自分がダメだと思ったら、もしくはこのままではダメになると思ったらとっととやめるべき。
タイムカードがないとか、残業代を出さないのは違法、という当然のことを知らない人がそれなりにいる。学校で教えるのが必要というのはもちろん、自分の身は自分で守らないと誰も助けてくれないという気持ちも大切です。一人でも多くつらい労働から解放されることを祈ります。そして、労働を苦にした自殺などない国になってほしい。
速読について
あらゆる文章、本というのは読まなければ情報としてほとんど価値をなさない。読むという行為は人間の能力であって、それは電子書籍ができたりインターネットが発達したからといって改善されるものではない。書かれていることを把握する能力というのは外部媒体に頼って改善することができないことの一つだ。
そして速読という技術が考えられた。今よりも早く読むことができれば、より多くの書物を理解することができて、個人の能力が発達するはずだと。結論から言うと速読ではすばらしい人間になれるないと思う。
文章を理解する能力は確かに早くなるだろう。しかし、文章というのは情報のレベルにとどまっており、それが個人にどのように影響するかは別のレベルだ。比喩的に言うと文章を咀嚼して飲み込んで消化し体内に取り入れることで初めて個人の能力に関連することができる。速読は咀嚼するところまでが早くなるだけで、消化して血や肉になるところまで早くなるわけではない。もしかしたらたくさん読むことはできても消化速度が向上しているわけではないから、消化不良を起こして胃もたれや余計な脂肪になってしまうかもしれない。だとしたら速読は食べ過ぎのようなものではないか。
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早く食べて早く吸収することができる人もいる一方、ゆっくり食べてゆっくり吸収することで体調がよくなる人もいる。つまらない正論だけど、自分が食べて吸収する速度までわかって、はじめて読書なのだと思う。と、読むのが遅い自分への言い訳に。
このにやつきと、その顛末
この恋と、その未来。1 -一年目 春-<この恋と、その未来。> (ファミ通文庫)
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この恋と、その未来。2 -一年目 夏秋-<この恋と、その未来。> (ファミ通文庫)
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くらやみ
実家はとてつもない田舎でコンビニまで5kmかかるような場所だった。車の通りは多いから街頭はちょこちょこあるのだけど、裸電球くらいの明るさ。満月と新月では道の明るさが全くちがって、いま考えるとよくあんなに暗いところを自転車で走れたものだと思う。たぶん、今よりもずっと夜目が効いたのだろう。そんな田舎だから、道路から一歩外れて街頭の届かないところに進むと、月と星しか明かりがない。実家には裏山があり竹林に入ると里の明かりが遮られて、懐中電灯なしでは一歩もあるくことができない。おとなになった今ならある程度冷静に対応できそうだけど、暗闇に慣れていても世界に慣れていない子どもにはたいそう怖い場所だったはずだ。
そんな子どもも成人して東京に暮らすと、闇の方が珍しくなる。東京には煌々と明かりがつき、見上げれば星が見えることのほうが珍しい。そんな人生をずっと送ってきて、山荘に泊まって久しぶりに闇夜に出たら一面の星空が広がっていた。
折しも新月。天の川もくっきりと見える。肉眼では6等星までしか見えないと言われるが、眼鏡で矯正された視力でももっとたくさんの星が見えるような気がした。そんな明るい星空の下の地上では隣の人の顔が判別できないくらいの暗闇。すぐ近くに山荘があるとわかっていても、単にロマンチックなだけではない、不測の事態を想定してしまう不安がつきまとう。くらやみにはそういう不穏さを常に抱えている。それでもくらやみでしか見えない、感じられないものがあり、人はくらやみを求めるのだろう。東京に必要なのはオリンピックや新しい魚市場じゃなくて、本当のくらやみかもしれない。
ストーリーは突然だから分からない
※写真と内容は関係がありませんたぶん
よく「商品にはストーリーが大切だ」なんてことを言う。作った人の背景とか、使う人の生活のステージを上げるとか。まあ要は購買者が気持ちよくなれるための情報を提供することが必要だということと理解しています。あんまり情報量が多くても一般の人は理解しきれないし、かといって陳腐なストーリーじゃ客は離れていくし、難しいものです。
一般的な話はさておき、自分にとって魅力のあるストーリーというのは「ちょっとわからない」ことだと思う。「全然わからない」だと魅力につながらない。アイススケートの審査のやり方とか経済の動向などは、自分で理解するつもりがないことと自分が理解したところでそのジャンルに影響を与えることがなさそうなことなどから、「全然わからない」の範疇にある。ああ、ゼクシィとかエグザイルさんなんかもそういうカテゴリ。そういう方々はどうぞ楽しくやってください、ただしこちらには来ないで、と思う。
「ちょっとわからない」というのは、それなりにわかっていることが前提だ。小説をけっこう読んでみたけど、詩は「ちょっとわからない」から手を出してみようとか。絵画を鑑賞することは好きだけど、写真の良さは「ちょっとわからない」から撮ってみよう、とか。そういうことは手を出すきっかけになる。関連性と言ってしまえば一言なのだけど、関連の質を見定めないといけない。自分にとってうっすら感じている壁、手を出さない理由になっている壁に、ストーリーをまとわせることによってさらさらと溶けていき、一歩踏み出すことができるようになる。その壁を化学反応で溶かすことができるストーリーは信用とか好奇心とか、結局は相手の個性を感じられることが焦点になる。
……うーん、「ちょっとわからない」ことの魅力がうまく伝えられないな。という、このもどかしさこそが愛着を持つ理由なのかも。できることをもうちょっと上手にできるようになるための、そのもうちょっとはどこにあるのか探すこと。それだけで人生終わっちゃいそうです。