uporeke's diary

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田中美穂『わたしの小さな古本屋』

 

わたしの小さな古本屋 (ちくま文庫)

わたしの小さな古本屋 (ちくま文庫)

 

 

本に関する本というのが苦手です。話題になった講談社学術文庫『本を読む本』もさっぱり理解できず、まして古本屋さんが書いた本というのはToo muchな印象が読む前から感じられます。本の中身について話すのは好きなのですが、わたしは本自体をあまり愛していないのかもしれません。1000冊近くあった本も200冊くらいにまで減らしてしまいましたし。先日訪れた書店Titleでは豆本が展示されていてワークショップの案内もありましたが、自分で本を作るというのが考えられず、何かについての本を作りたいという欲求がないことにも気づかされました。なのに編集者を志望していたというのは、甚だしく己の分というのをわかっていなかったのだと思います。今でも自分の分なんてわかっていませんが。

二十歳そこそこで古本屋をはじめ、郵便局のアルバイトなどを掛け持ちしつつ、親族の死を転機に古本一本に絞って細々ながらも確実に続いているのは地道な努力の結果なのでしょう。人は複数のことに手を出すとなかなかうまくいかないようで、退路を断って一つのことに集中すると道が開けるというのはある種の真理なのかもしれません。生き方は不器用に見えますが、手先の器用さや独特の審美眼を活かして、書店内ライブや苔グッズの販売などただの古本屋には収まらない。また、何より周囲の人がいい。周囲の人がいいというのは本人がよくなければ決して集まってくれないものです。人に「おもしろい」と思われるからこそ、同業者のみならずミュージシャンや学者などが訪れるお店に育ったのでしょう。

苔の先達というつもりで読み始めましたが、古本屋ならではの(かなり独自ですが)苦労や楽しみ、「おばあさん」のような日常が描かれており、ほっと安心できるお店なのだろうと文章からも伝わってきます。個人的に岡山は未上陸の地なので、近いうちに苔観察に絡めて訪れてみたい場所です。