uporeke's diary

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くらやみ

実家はとてつもない田舎でコンビニまで5kmかかるような場所だった。車の通りは多いから街頭はちょこちょこあるのだけど、裸電球くらいの明るさ。満月と新月では道の明るさが全くちがって、いま考えるとよくあんなに暗いところを自転車で走れたものだと思う。たぶん、今よりもずっと夜目が効いたのだろう。そんな田舎だから、道路から一歩外れて街頭の届かないところに進むと、月と星しか明かりがない。実家には裏山があり竹林に入ると里の明かりが遮られて、懐中電灯なしでは一歩もあるくことができない。おとなになった今ならある程度冷静に対応できそうだけど、暗闇に慣れていても世界に慣れていない子どもにはたいそう怖い場所だったはずだ。

 

そんな子どもも成人して東京に暮らすと、闇の方が珍しくなる。東京には煌々と明かりがつき、見上げれば星が見えることのほうが珍しい。そんな人生をずっと送ってきて、山荘に泊まって久しぶりに闇夜に出たら一面の星空が広がっていた。

 

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折しも新月。天の川もくっきりと見える。肉眼では6等星までしか見えないと言われるが、眼鏡で矯正された視力でももっとたくさんの星が見えるような気がした。そんな明るい星空の下の地上では隣の人の顔が判別できないくらいの暗闇。すぐ近くに山荘があるとわかっていても、単にロマンチックなだけではない、不測の事態を想定してしまう不安がつきまとう。くらやみにはそういう不穏さを常に抱えている。それでもくらやみでしか見えない、感じられないものがあり、人はくらやみを求めるのだろう。東京に必要なのはオリンピックや新しい魚市場じゃなくて、本当のくらやみかもしれない。