uporeke's diary

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ヘミングウェイごっこ

ヘミングウェイごっこ

Moleskineを買ってからというもの、より記憶に残る使い方を求めて過去にMoleskineを使っていた偉人たちがどのように使っていたのかを知りたく思い、彼らの著作をふつうの小説を読むのとはちがった視点で読んでいます。今回は真打ちヘミングウェイ、の失われた初期の贋作を作って大もうけしようと企む詐欺師と、彼につきまとわれるヘミングウェイ研究家の話。これが意外にもすごいSFに化けるところがすごい。

単に贋作を作るだけなら同じタイプライター(年代物は同じものが見つけにくい)に同じ紙で古めかしくするだけで外見は整う。問題の本文はこのヘミングウェイ研究家が絶対の記憶力をもって同様の文章を生み出すという仕掛け。ようやく見つけたタイプライターを買おうとした時、現れたのは果たして……。

ジョー・ホールドマンというとまずやってくるのは『終わりなき戦い』のマッチョな戦争SFですが、実は相当のヘミングウェイ愛好家でもあるという。ヘミングウェイの描写一点張りで人物の内面はそこからにじみ出てくるだけを読み取ればいい、という潔い姿勢をSFで受け継ごうとすると戦争物になってしまうのは仕方ないのかもしれません。そんな作家がヘミングウェイとSFを結びつけたいと考えて編み出したのはこんな直接的なテーマだというのがおもしろい。

本書のラストについてはぜひ読書会で語りたい。SF的な発想の飛躍があって理解が難しかったです。しかし、それを差し引いても天才的な贋作が世界の根本を変えるかもしれないと想像することの楽しさを感じられる佳作です。これは是非復刊してほしい。