uporeke's diary

苔を見ています http://www.uporeke.com/book/

世田谷文学館「植草甚一/マイ・フェイバリットシングス」

mainImgUekusa.jpg

大学時代、勉強にまったく興味が持てなかったわたしは無頼を気取って麻雀に打ち込んだりJazzのレコードをあさったりしていたものだが、当時はすでにJazzはフュージョンは終わって下火になっており、今ほど盛り上がりはなかったような気がする。プログレやJazzが好きなのは、当時の美意識や機材がないなりの工夫が結晶になっていた。ジャケットは写真を黒を基調に青やピンクなどの2色に抑えたBlue Noteや、Prestigeの硬質なイメージに言葉には表せないあこがれを感じていたのでした。チャーリー・パーカーマイルス・デイヴィスはもちろん、チェット・ベイカーの甘い声、ビル・エヴァンスのしとやかなピアノは何度も繰り返して聴いたものです。

それらに接するとき、参考になるのは同時代のJazz専門誌ではなくて、すでに膨大なレコードが出ている中でこれがいい、と談じている評論家のエッセイなどです。村上春樹から油谷正一、そしてこの植草甚一の文章によってJazzへの距離がずっと縮まったのはまちがいない。70年代の意外性がおもしろさに直結し、おもしろいことだけをやって評価される時代。音楽に関しては今よりもずっと「粋」があったと思います。

そのおもしろいことだけをずっと追究しつづけたのが植草甚一でした。おもしろいものを見つけてそれを形にすることで趣味を仕事にしていた風流人。その洋書コレクション、筆まめだったはがきの数々、Jazzの記事などを展示しているのが世田谷文学館で行われている「植草甚一/マイ・フェイバリットシングス」。Jazzに関する展示が中心だが、悪趣味すれすれのネクタイやきりっとしたジャケットも展示されている。この実験精神を愛せる感性を広めた先駆者として見ておくべき展示でありました。

また、2階ではムットーニさんのからくりが設置されていて、偶然待ち時間なしに見ることができたのでした。上映していたのは村上春樹の「夢」、夏目漱石の「夢十夜」に加えて、ブラッドベリの畢竟の名作「万華鏡」。「万華鏡」は物語を読んでいないとなんだかわかんない代物ですが、浮かんだような沈んでいるような宇宙飛行士が印象的でした。こっちを見るだけでも行く価値ありです。