uporeke's diary

苔を見ています http://www.uporeke.com/book/

[book]ホルヘ・ルイス・ボルヘス『闇を讃えて』(水声社

闇を讃えて

闇を讃えて

あとで書く。

[book]アリ・スミス『ホテルワールド』(DHC)

ホテルワールド

ホテルワールド

DHCから出版される海外文学は、新人翻訳家の登竜門でおそらく部数も少ないのだろう。しかし、こういう名作が埋もれてしまうのは本当に残念なので、ぜひ大手出版社の文庫版などに落とすしくみを作ってもらいたいものだと真剣に思う。アリ・スミスは他に短編が少し訳されているだけですが、本書を読んで日本でももっと訳されてほしい作家の一人になりました。

学生時代は水泳選手として数々の賞を受けたサラ・ウィルビーは、就職したホテルで勤務2日目に墜落死を遂げる。そのホテルを中心に、サラ、ホテルの前に居座る浮浪者、ホテルの従業員、ホテルの紹介文を書くライター、そしてサラの妹クレアと5人の主観による連作短編。

なんといっても死んでしまったサラの語りが素晴らしい。詳しくは伏せるが、この世のものではない存在からの語りというのは実際にどんなものかわたしには分からない。けれどもサラのさばさばした口調に時折交じる非現実世界の痕跡の描写が見事。だてにイギリスでいくつもの賞を取っているわけではない。口の中に土を入れて感触を確かめるのはガルシア=マルケスレイナルド・アレナスに続く貧困マジック・リアリズムの系譜をしっかりと受け継いでいると言えましょう。浮浪者のエルスも良かった。一見ぼんやりしているようでもわたしなどには到底届かないような想像力がふわりと羽ばたいている。

エルスだって母音はいらない。彼女だっていろんな速記を知っている。彼女は自分が中途半端な言葉(すべて発音する必要はないから)を使うたびに、いらなくなった文字が歩道に散らばっていくところを創造している。そしてそのことを警官や道路清掃者、それに腹を立てている通行人たちになんと弁明しようかと考える。ちゃんと後始末しとくから、頭の中でそう彼らに語りかける。ただの文字だよ。どっちみち自然に返るもんだし。葉っぱとおんなじように腐るものなんだ。いい肥料になるよ。鳥は巣作りで、卵を温めておくための敷物にするしね。

本作は5つのパートに分かれており、語り手によって印象が変わる。しかし、驚いたのはクレアの語りがものすごく少女まんがちっくなところだ。それも岡崎京子『pink』と志村志保子を足して割ったような、表面のドライと内面のウェットが細い線で浮かび上がるような感じ。クレアが姉の事故現場であるホテルに乗り込み、そこで従業員たちが思いもかけぬ親切さをみせる。真夜中のホテルで宿直の従業員たちとまだ15歳のクレアが思いの深さはちがっても20歳寸前で命を落とした女の子のことを思い出しながら、ごっついモーニングプレートを平らげる生命力。心と身体が健全に動いてひとつの許しにたどり着いた瞬間はちょっと鳥肌もの。真夜中にはふと人を許してしまう優しさが漂っている。そこがすごく印象に残りました。