uporeke's diary

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『アンナ・カレーニナ(上)』を読みました

アンナ・カレーニナ〈上〉 (岩波文庫)

アンナ・カレーニナ〈上〉 (岩波文庫)

ロシアの文豪トルストイの代表作。文学部に通っていたにもかかわらず、文豪と言われてもおもしろさを感じたことのないわたしには、本作を楽しめるのかどうか不安だった。読む前は自分の選評眼が試されるような不安すら感じたものです。しかし、「小説のおもしろさは若いときにわからないものが多い」というのが30を超えたらとたんに読書がおもしろくなったわたしの意見であります。単にわたしが経験不足なのかもしれないけど、無理に名作を読むよりはその時々におもしろいものを選ぶことのできる目を養うことも必要でして、それはさしづめ風邪をひいたときにビタミンCを摂取したくなるように、自分の状況にあわせて脳みそが自然に求める本を手に取れる自在さが、別に文学者でも編集者でもない一介の読書好きには必要なのかもしれません。

まだ上巻を読んだだけですが、結論から申しますと大変におもしろい。高貴な連ドラです。あらすじだけなら純愛と不倫の二本立て同時展開の恋愛ドラマ、というだけのこと。それをトルストイ独自にして最高の(とナボコフ先生はおっしゃっています)時間の流れに沿って、(見たことはありませんが)ボルガ川の流れのように雄大に進んでいきます。人物の内面もロシアの自然も等しく扱われ、もぎたての果実を囓るようなありのままの美しさを味わうことができます。これが文豪の力かっ。

しかし単に人間関係だけをだらだら読んでいてもきっとわたしは飽きてしまうので、外川継男『ロシアとソ連邦』(講談社学術文庫)も併読してなるべくロシアの歴史も同時に吸収するようにしています。当時のロシア貴族は気取ってフランス語で会話をする割に、「おらがロシアは世界一ィィィィィィ」と叫んだりするので、その分裂ぶりも興味深い。あまりのおもしろさに、この本を手にするたびに「本だけ読んで暮らせたらどんなにいいか」と嘆息するほど。寒いうちはやっぱりロシア文学です。