uporeke's diary

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「皇室の名宝−日本美の華−」

昨年は日本の美術史上の粋を集めた「対決−巨匠たちの日本美術」 で数々の銘品を鑑賞できましたが、今年も匹敵する展覧会があるのでした。同じ東京国立博物館で開催されている「皇室の名宝−日本美の華−」。第1期は11/3までということで、平日の朝一番乗りを目指して9時30分開場のところを9時に到着するも、すでに50人ほどの列ができており、その後も開場まで続々と人が集まり続け関心の高さがうかがえます。

当然すべての作品が見所ですが、まずはなんといっても狩野永徳「唐獅子図屏風」であります。今回は左隻に弟子筋にあたる狩野常信の「唐獅子図屏風」が飾られ、右隻の永徳を両親に見立てて、子供の唐獅子がはね回る関係性ができるためにこれまでより物語性が増した印象。改めて認識したのが、永徳の唐獅子は大きな水玉模様があること。これが唐獅子にどこかキャラクター的なファンシーさを与えている要因なのかもしれない。

2つめの部屋を独占している伊藤若冲動植綵絵」と「旭日鳳凰図」がすごい。若冲でもっとも有名な鶏の絵を始め、連隊を成す雀、波と足がつながってしまった蛸など偏執的ともいえる細やかな描写を堪能。また、「旭日鳳凰図」ではうっすらとピンク色がかかった鳳凰2羽が描かれ、孔雀の羽をモデルにしたと思われる尾羽と天に輝く太陽の色が、同じ赤(会場ではピンク色に見えたが図録では赤)と群青の組み合わせになっているところもおもしろい。太陽のコロナが群青になることで、太陽をひたすら脇役として鳳凰を中心に飾り立てることになっている。たまたま開場前の待ち時間に読んでいた辻惟雄『奇想の系譜』で若冲の絵画のところどころに「のぞき穴」があると読んでいたのでそれも確認。「雪中錦鶏図」の左下に雪塊から牡丹がのぞいていたり、「紅葉小禽図」では画面左に枝が楕円になっていたり、不思議なのぞき穴が散見できる。ところで、「動植綵絵」では背景が完全に灰色というか鈍色に統一されているのは理由があるだろうか?

さらに奥に進むと円山応挙。金泥に沈む平安の屋敷を描いた「源氏四季図屏風」、得意の「牡丹孔雀図」もさることながら、猫ぶりがおもしろい「旭日猛虎図」が傑作。部屋で対面する谷文晁「虎図」ではぐにゃりと曲がった目つきに筋肉質な体躯であるのに、応挙の虎はふんわりとした肉付きで「これ食えるの?」と問いかけるような猫の目をしていてかわいらしさがあふれています。谷文晁は南画の人だと思っていたので、重量感ある虎の絵にびっくり。

同じ部屋の酒井抱一「花鳥十二ヶ月図」もまじまじと見てしまう。若冲の草木はねじれてSFチックやシュールレアリズムな模様でさえあるのに、抱一の草木は墨のにじみをいかした素直な描写で安心できます。葉の緑をかなり抑えて、葉脈の中心部に明るい緑を置くことで緑を強く意識させる手法がおもしろい。本来なら緑色がないはずの樹木の幹にまで葉と同じ明るい緑を置いたりするのですが、それがまた植物の生命感を際だたせています。


通路を渡って近代に入るとなんといっても横山大観「朝陽霊峰」がすごい。右隻は松が茂る山にオレンジ色の太陽、左隻は金色に輝く富士という図式なのですが、太陽のオレンジは背景の金箔と相まって光の角度で輝きが変わる。正面から対峙するとオレンジ色が強く出ますが、かがんで下から見ると普段目にしている輝く太陽そのものが現れる。一方で富士山は金色を使っているのにどの角度から見ても同じ金色を保っている。これは本展随一だと思いました。

青磁やガラス、七宝の壺、螺鈿の棚などが並ぶ工芸の一角で川島甚兵衛(第3代)による縦3メートル、横6メートルを超す大作「春郊鷹狩・秋庭観楓図壁掛」には仰天。この大作、すべてつづれ織りでできている。図録では縮小されて感慨など起こりようもないが、間近で見るとすべて糸、つまり今で言うところのドット絵なのです。衣装にはそれぞれ家紋が入り、これも刺繍。地面とも霞ともとれる金糸と池や空の青が混じる糸の余韻はクレイジーとしか思えない。しかもこれだけ精緻な大作を1年ほどで作り上げてしまう技量にもほとほと感心し通し。さらに本作は途中で制作を中断したという。その詳細は「川島織物文化館コレクション展」の紹介にて。

第2期になると絵画はかなり減って書などが多くなるようです。このラインナップを見られるのは今日だけ。毎年恒例にしてほしいくらいの逸品揃いでした。今から上野に走れ!