uporeke's diary

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ニール・ウィリアムズ『フォー・レターズ・オブ・ラブ』(アーティストハウス)

フォー・レターズ・オブ・ラブ

フォー・レターズ・オブ・ラブ

まったく知らない作家ながら、帯のパブリッシャー・ウィークリーのコメント「叙情的で感動的なアイルランドマジック・リアリズム」ときたら読まずにはいられまい。

神の啓示を受けて公務員から画家になった無口な父を持つニコラス。一方、小さな島で仲むつまじく暮らしていた校長をつとめるゴア一家で、突然長男ショーンが植物人間となり、さらに長女イザベラは学校もろくに行かずに男に熱を上げてしまい、街でぶらぶらしている。幸福とは縁遠くなってしまった二つの家族が結びついたのは、偶然のように見える運命だったのかもしれない。

マジック・リアリズムといわれればなるほどマジック・リアリズムにカテゴライズされるべきでしょう。でも、ガルシア=マルケスに代表される中南米マジック・リアリズムは日常的に不思議なことが起こりそれが当事者たちには当たり前なのに比べて、本作ではパズルでいったら最後の1ピースがきっちり収まった時の愉悦、スポーツだったらハンカチ王子の投手戦のような、あるべきものがあるべき場所におさまりすぎた完璧さの訪れた結果であります。それゆえ現実が物理のルールに耐えきれずたわんだゆえに漏れ出してくる異世界の光といった趣。その発現がアイルランドらしく音楽だったりするところも好印象。BGM は普段あまり聴かないIONAでしたが、後半の盛り上がりにはぴったりでした。

わたしはほとんど読んだことありませんが、バリー・ユアグローなど柴田元幸系とカテゴライズしてしまいたい、ちょっと不思議な感覚が受け入れられる人にはおすすめ。しかし、ちょっぴり物語優先となってしまって作者の都合の良さが出てしまったのがややマイナス。ショーンの看護やイザベルのすさみ具合などのディティールがかっとばされているところも多く、ロマンチックなところがちょっと強すぎてきれいにまとまりすぎたきらいはあります。しかし、最後まで展開は分からないし、個人の立場ゆえの葛藤が響いてきてよどみなく読み通すことができました。盛り上がったキャッチボールができたときのような、爽快な読後感でした。