uporeke's diary

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よしながふみ『きのう何食べた?(2)』

きのう何食べた?(2) (モーニング KC)

きのう何食べた?(2) (モーニング KC)

社会人になってから貯金できるほど稼ぎがないこともあり、メシの9割は自分で作ってきた。会社にお弁当も持っていく。だから、本書の主人公筧が料理中に考えている手順や食材を使い回して無駄を出さなかったときの快感はだいぶ共感できる。性的にはできないけれども。

それにしても料理のことこれだけ懇切丁寧に描けるというのは、著者が本当にメシ好きなんだな、って分かる。完成!の図以外の背景でも、料理に貼られたトーンの細かさがにくい。料理の作り方というのは手を動かすと簡単に思い出せるけど、いざキーボードに向かって文章で表すとなると細かい手順を省いてしまったりするので、どうしても分かりにくくなってしまう。『美味しんぼ』他数々の先例があるとおり、マンガという媒体は料理に向いているものだなとも思う。そして本書はその手抜きをなるべく排して誰にでも分かりやすく描いている(ように思える)。

#9のスペシャルディナー最後のページにある赤ワインのボトルを見るとボルドー系ではなく、ネックがすっと細くなっているためおそらくはピノノワールかシラーのようなちょっと高級なものだと分かる(この形の瓶で安いものもあるけれど、「〜tin」というラベルからおそらくはジュヴレ・シャンベルタン)。しかしグラスを普通に描いているのが普通のカップルぽさを演出している。これがスワリング(ワインをぐるぐる回して空気になじませること)に適した大げさなグラスだったらワインおたくぽさが出てしまい、話が違う方向に行ってしまう。この辺の「ふつうさ」のさじ加減がうまい。

#10のぶり大根で1つだけ気になったのは、大根の下茹で。下茹では米のとぎ汁でやるか、20粒くらいの米(炊いてないやつ)・または米屋でぬかをもらっておいてひとつかみ入れるというのは必ず守って欲しい。単に水から下茹ですると柔らかくなるだけだが、とぎ汁でやると米ぬかのデンプンが大根に付着して煮汁が染みこみやすくなる/煮汁が抜けにくくなるのです。だから煮汁が薄味でもおいしい。

作中ではラザニアなんてわたしが作ろうと考えたこともないものが出てきたが、自分が作れるスペシャルディナーって何だろとちょっと考えた。

くらいまでは思いつくけど、ラザニアに勝てるものがないや。来年はなにか大物を一つマスターしようかな。と、調理欲を刺激される一冊でありました。