uporeke's diary

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アラスター・グレイ『哀れなるものたち』(ハヤカワepiブック・プラネット)

哀れなるものたち (ハヤカワepiブック・プラネット)

哀れなるものたち (ハヤカワepiブック・プラネット)

2009年の1冊目にこれほどの傑作を読めたことを神に感謝したい。フランケンシュタインをベースにしたSFファンタジーでありつつ、手記の形式をとり誰が真相を語っているのか分からないメタフィクションの形式で紡がれる。図書館で借りてしまいましたが、早速書店に買いに行って再読したい気持ちを抑えられない。

最初の手記は、アーチボールド・マッキャンドレスという医師が、高名だが孤独に研究を続けるゴドウィン・バクスターと出会い、ベラ・バクスターなる女性に出会うところから始まる。彼女はとある方法で死を免れたが記憶喪失となり一から人生をやり直しているという設定だが、暴れ馬のように周囲の男たちを振り回し続ける。バクスターのラストには本来ベラの役割となる不気味さと優しさを一手に引き受けた謎の人物の悲哀があった。泣けた。

そしてこの手記が終わると、題材にされたベラ・バクスターによる長い手紙があり、さらに全体を通した「批評的歴史的な註」がある。この註は小説上、非常に重要な役割を果たしており真実を陽炎の先にゆらめくものとしている。ベラの不穏な手紙からは先に記された手記がまったくのでたらめであるとされながらも、註は彼女の手紙の内容を裏付けながらも最後に年齢を記すことで手記そのものの信憑性を裏付けるような仕組みになっている。このラストは本当にぞっとしたし、『エンジン・サマー』で回帰するときのような語られることがつながったときの高揚感がありました。

一つ分からなかったのが手記の表紙となる箇所に書かれた訂正で、ジャン・マルタンシャルコー教授ではなく、(確か)物語に登場しない人物のエッチングであったというところ。モンテスキュー−フゼンザック伯爵なんていたっけ?