uporeke's diary

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ゴーゴリ『狂人日記』(岩波文庫)

狂人日記 他二篇 (岩波文庫 赤 605-1)

狂人日記 他二篇 (岩波文庫 赤 605-1)

【収録作】

ゴーゴリを読むきっかけはナボコフの『ロシア文学講義』、そして平凡社から出ている『ニコライ・ゴーゴリ』だ。もちろんナボコフがほめているからという理由もあるが、二つともほぼ解説書の体をなしているため、作品を読んでから読まないとおもしろみが分からないだろうし、自分にとってのゴーゴリのおもしろさをある程度形にしてからでないとゴーゴリにも失礼だと思ったから。いきなり解説書を読んでしまうのは、ゲームの攻略本を読んでからゲームに向かうのと同じで、なぞられた楽しみしか受け取れない。それは正解であり近道なのかもしれないけど、perfumeさんが言うには「何だっていつも近道を探してきた 結局大切な宝物までなくした」そうなので、ゴーゴリ本人を読むまではナボコフの2冊はお預けなのです。

表題作「狂人日記」のあらすじは、政府の中央に勤める一官吏が長官の令嬢に恋をするも実らない日々が続く。日記に愚痴を書き付けていたらどんどん精神状態が悪化していくという話。訳されている通りべらんめい調の勢いも似合うし、陰湿な小言にしてもおもしろそうで、もしロシア語ができたならいろいろ訳し分けてみたくなる文章も素晴らしい。なんといってもただの被害妄想が深刻化していき、犬の手紙が読めるようになるところが読み所。えっ、犬って手紙書くの? なんて疑問がばからしくなるほど、犬はしっかりと手紙を書いている。実際に主人公は長官の家に乗り込んで犬小屋から手紙を見つけてしまうくだりは読者も「犬は本当に手紙を書くんだ!」とぞくぞくします。「なかなかはっきりした字で書いてあるが、それでもなんとなく書体に犬らしいところがあるな。」という呟きの妙味。このシーンは何度読んでもたまらない。この後犬の手紙を冷静に読みつつ論評を加えていくが、漫才のボケとつっこみのようなテンポが出ている。

ひどくむらのある書き方だなあ! 人間の書いたものでないってことが、もうひと目ではっきりする。書き出しは、ちゃんとしているが、終わりにいたって尻尾をだしたという形だ。


犬だけに!